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高まる地政学リスク 株・為替への影響は

日本経済新聞

地政学リスクへの警戒感が高まっている。3日にロシアのサンクトペテルブルクで地下鉄爆発事件が起き、5日朝には北朝鮮が日本海に向けて弾道ミサイルを発射した。トランプ米大統領は中国の姿勢次第では対北朝鮮で単独解決を辞さない構えを示している。市場への影響を聞いた。

「株、米中協調を確認なら安心感」

重見吉徳・JPモルガン・アセット・マネジメント・チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

地政学リスクを意識させる材料が相次いでいる。先行き不透明感の高まりは株式相場の重荷だ。ただ6~7日に開かれる米中首脳会談で、北朝鮮への対処をはじめとする地政学リスクに対して米中が協調姿勢を示すとの見方があり、株式市場では様子見ムードが広がっている。

北朝鮮を巡る対応策は、貿易や為替問題と並んで首脳会談の主要議題に上るとみられ、地政学リスクの高まりはむしろ米中の融和を促すとの期待がある。実際に中国が対北朝鮮で米国に歩調を合わせる姿勢を示せば市場では安心感が広がる。リスク回避姿勢は後退するだろう。


「為替、1ドル=110円が上限か」

岩下真理・SMBCフレンド証券チーフマーケットエコノミスト

地政学リスクを織り込むと為替相場は当面、1ドル=110~112円での細かい値動きが予想される。トランプ米大統領の経済政策の実現性への不透明感や週末に控える3月の米雇用統計発表を前に様子見ムードが強まっている為替市場では、ロシアでの地下鉄爆発事件といったテロ攻撃が起きることは悪材料として「低リスク通貨」の円の買いを誘いやすい。ただ堅調な米経済やトランプ氏の政策期待が残る限り、円買いが一方的に進むとは考えにくい。円相場は1ドル=110円が上限とみている。

一方で円相場の下値は堅そうだ。北朝鮮の弾道ミサイル発射は6~7日の米中首脳会談を控えて存在感を誇示する狙いがあったとみられる。北朝鮮問題を巡る米中関係の緊張感が高まりやすい状況では円売り・ドル買いの動きも限定されそうだ。

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米景気に漂う頭打ち感、円高呼ぶ

日本経済新聞 経済部 浜美佐

外国為替市場で円相場がじわりと円高に振れてきた。前日の海外時間に公表された米経済指標が前月を下回ったことをきっかけに米金利が低下し、ドル売りを促した。市場は統計のわずかな変化に、好調だった米景気の変調の兆しをかぎ取っている。

4日の円相場は1ドル=110円台半ばと、前日17時時点に比べて90銭前後の円高・ドル安が進んだ。円相場はこのところおおむね110~115円のレンジで膠着状態が続いてきたが、足元の水準は円高の上限に近づいている。

円買い・ドル売りのきっかけを作ったのは、米サプライマネジメント協会(ISM)が3日発表した3月の米製造業景況感指数だ。結果は57.2と、2年6カ月ぶりの高水準を付けていた前月(57.7)から0.5ポイント低下したが、事前の市場予測(57.0程度)は上回っていた。ほぼ市場のコンセンサス並みの数字が出たにもかかわらず、市場が動いたのはなぜだろうか。

市場が注目していたのは、個別項目の指数だ。「生産」の指数が57.6と、前月から5.3ポイント低下と大きく下がっていたのだ。さらに同日公表だった2月の米建設支出の伸びは市場予想に届かず、ゼネラル・モーターズ(GM)など米自動車大手が公表した3月の新車販売台数も低調だった。「好調を続けてきた米景気にやや頭打ち感が出てきた」(外資系証券)との受け止めが広がった。

米製造業の変化を最初にかぎ取り、まっ先に動いたのは米債券市場だ。統計公表後に米国債には買いの勢いが増した。米長期金利の指標となる米10年債利回りは3日、前週末比0.06%低い(価格は高い)2.32%と、2月27日以来およそ1カ月ぶりの低水準を付けた。

経済指標のわずかな悪化だけで、これほど金利が低下するのはやや意外感もある。JPモルガン・チェース銀行の棚瀬順哉氏は「米連邦準備理事会(FRB)が利上げに踏み切った3月にかけて積み上がった米国債売りのポジションがまだ市場に残っていることが金利の動きを大きくした」と指摘する。投資家のポジションが売りに偏っていた場合、統計などわずかな材料でも米国債が買い戻され、米金利に低下圧力がかかりやすくなる。米金利の低下は、日米金利差の縮小観測から円高を呼び込みやすくする。棚瀬氏は「3月以降の日米金利差と円相場の相関にもとづくと、110円を上回る円高が進む可能性は十分ある」と見る。

ただ、ポジション調整が足元の米金利低下を主導していた場合には、その解消が進めば、動きは止まる。相場の大きな方向感を見極めるには、経済指標を一つ一つ確認し、米経済が本当に曲がり角を迎えたのか確認するという基本に立ち返る必要がある。今週末の7日に公表を控える3月の米雇用統計はその試金石となりそうだ。

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債券トレーダー、17年の4回利上げなど信じず-3月雇用統計見極めへ

Bloomberg

4-6月(第2四半期)が始まり、債券トレーダーらは米連邦公開市場委員会(FOMC)のどの当局者が米経済を最もしっかりと見定めているかを、最新の雇用統計から見極めようとするだろう。

10年物米国債利回りは3月31日、同月の最低付近で終了した。ニューヨーク連銀のダドリー総裁は同日、2017年に3回の利上げという予想は「妥当」であり、景気は過熱していないと述べた。一方、ボストン連銀のローゼングレン総裁はその2日前、過熱のリスクに言及し17年の4回利上げが妥当になることもあり得るとの考えを示した。サンフランスシコ連銀のウィリアムズ総裁も4回利上げの可能性を排除しなかった。

しかし債券市場はニューヨーク連銀のダドリー総裁を信じた。リフレトレードへの疑念も深まる中で、市場に基づくインフレ期待は今年の最低水準からあまり高まろうとしない。経済指標が予想を上回る度合いもシティグループのデータによると、14年来の高水準から離れつつある。

アリアンツ・インベストメント・マネジメントの投資ストラテジスト、ジョン・ブレデマス氏は「米国債市場はより慎重な見方をし、『証拠を示せ』と言っている」と指摘。「いろいろな約束があるが、インフレ加速が金利上昇を正当化することについてわれわれはここ数年に何度も失望させられている」と話した。

7日発表の3月の米雇用統計が、いずれかの証拠になる見込みだ。ブルームバーグの調査では中央値で、雇用者数17万5000人増が見込まれている。

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今週のドル/円は伸び欠く、米利上げ期待でもトランプ警戒重し

[東京 31日 ロイター]
今週の外為市場でドル/円は、目先の伸びしろが限られそうだ。米利上げが着実に進められるとの思惑から米雇用統計発表に向けて底堅いと見込まれる一方、米中首脳会談を前にトランプ米大統領の保護主義的な言動が警戒され頭を押さえられそうだ。

予想レンジはドル/円が110.50―113.50、ユーロ/ドルが1.0600―1.0900ドル。

トランプ米大統領の政策への期待がはく落してきている一方、米連邦準備理事会(FRB)高官らによるタカ派寄りの発言で続いており、あらためて米国の堅調な経済面に関心が寄せられている。

金利先物市場に基づく利上げ見通しをCMEグループがまとめる「Fedウォッチ」では、6月利上げの織り込みは5割程度で「まだ織り込みの余地がある」(国内金融機関)と見られている。

利上げペースの見極めで重要となる米経済指標は、米3月ISM製造業景況指数(3日)、米2月貿易収支(4日)、米3月ADP雇用統計、米3月ISM非製造業景況指数、連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨(5日)、米3月雇用統計(7日)と、連日のように発表される予定。FRB高官の講演予定もある。

このところの指標は堅調な数字が多い上、経済が急減速する様子も見えていないとして、総じて良好な結果を予想する向きが多い。あおぞら銀行の市場商品部部長、諸我晃氏は「指標も悪くなさそうだし、トランプ期待のはく落はいったん消化した。良好な数字が出てくれば、素直なドル買い反応だろう」と指摘している。

ただ、「トランプ米大統領の不規則発言には引き続き目配りが必要」(諸我氏)と見られている。

6─7日には米中首脳会談が控えている。友好ムードの演出にとどまるとの楽観論がある一方、トランプ大統領が巨額な貿易赤字の原因を特定することを目的とする大統領令に署名する方針も伝わっており、「首脳会談にかけて米国のドル安志向への思惑が強まれば、ドル/円下押しに作用しかねない」(別の国内金融機関)との見方も出ている。

日本サイドでは、3日に3月日銀短観の発表があるが、政策変更への思惑は高まりにくいと見られている。

ユーロは、欧州中央銀行(ECB)の引き締め観測やインフレ期待が後退し、売られてきたが、中期的なECBの引き締めへの思惑は根強く、底堅さも意識されそうだ。

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コラム:トランプ政策とドル円、3つのシナリオ

門田真一郎 バークレイズ証券 シニア為替・債券ストラテジスト

[東京 27日]
ランプ大統領と共和党指導部は24日、医療保険制度改革法(オバマケア)の改廃法案である「アメリカン・ヘルス・ケア・アクト(AHCA)」の下院採決を撤回した。より完全な撤廃を求める共和党保守派グループ「下院自由議員連盟」などの反対で過半数の票を確保できなかったことが直接的な原因だが、そもそも今回の共和党案は国民の支持も非常に低いものだった。

3月16―21日実施の米キニピアック大学調査によれば、AHCAへの支持率は17%にとどまり、共和党支持者のみでも41%と半数に届いていなかった。

共和党内部の各方面に配慮していった結果、最終的な共和党案は無保険者を今後10年間に2400万人増やす一方、財政赤字の削減幅は1500億ドルと当初案の3370億ドルから大きく縮小するなど、支離滅裂な内容となっていた。

共和党指導部は今後、税制改革に軸足を移していくとしている。税制改革は共和党内でも比較的支持を集めやすいと目されており、市場でも期待感からか24日は株の買い戻しがみられた。ただ、オバマケア改廃交渉の難航はトランプ政権の運営能力に改めて疑問を呈する結果であり、今後の政策シナリオについては幅広い可能性を想定しておく必要があろう。

本稿では、マクロ経済・金融市場への影響が大きいとみられる税制改革と通商政策を中心に、基本シナリオ、強気シナリオ、弱気シナリオの3つの想定に基づいて検討したい。

<2011年以降のドル高トレンド終えんも>

まず基本シナリオでは、抜本的な税制改革を伴わない減税と対象を絞った象徴的な保護主義的通商政策を想定する。減税規模については、国内総生産(GDP)比1%程度の所得税減税と同0.5%程度の法人税減税によって、2018年1―3月期の成長率が1.3%ポイント程度押し上げられると見込んでいるが、昨年11月の大統領選直後の当初想定からは規模・時期ともに前提を後退させている。

通商政策は一部の国に対する業種別の関税適用など象徴的な域を出ないものになると考えている。トランプ大統領が共和党予備選の頃から主張していた中国、メキシコに対する大規模関税などは結局実現に至っていない。

また、その他インフラ投資などの政策は執行に時間を要するものも多く、短期的な景気刺激効果は限定的なものになるだろう。こうした前提の下、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策については今年3回の利上げ(3月、9月、12月)を予想している。

財政拡張の遅延と規模縮小、そして緩やかな利上げは、先行きドル高が小幅にとどまることを示唆している。現在では年内のドル指数の上昇余地は3%程度にとどまり、年末にも2011年以降続いた長期ドル高トレンドがピークを迎えると考えている。ドルはすでに大幅な過大評価水準にあり、他国経済の持ち直しによって米国経済の循環的な優位性が失われる中、ドル高が一服していくとみる。

トランプ政策が短期的な財政刺激に終始し、潜在成長率の押し上げが限定的にものになるとみられる中、米長期金利の上昇余地もかなり限られよう(2017年末の米10年金利を2.5%と予想)。

すでにFRBの年3回の利上げも織り込まれつつある中、米金利上昇によるドルの押し上げも限定的なものとなりそうだ。特に米金利差主導で上昇してきたドル円は今年半ば以降、110円を割り込み、円高が進むとみている。ポンドも実質実効レートではほぼ半世紀ぶりの割安水準にあり、中期的には対ドルで買われやすいとみる。

<弱気シナリオに傾くリスク>

次に、強気シナリオとしては、大規模減税、法人税制の簡素化、国境税調整などを含む抜本的な税制改革が実施された場合を想定している(通商政策は基本シナリオ同様、象徴的な範疇にとどまると仮定)。

国境税調整は実質所得減少を通じて短期的な個人消費の押し下げ圧力となろうが、最終的には税制改革とともに米国内での設備投資拡大につながるとみている。この場合、米国の潜在成長率が押し上げられ、実質金利上昇や資本収益率の改善から長期フォワード金利が押し上げられ、基本シナリオ対比で8―9%のドル高余地が生じよう。

低付加価値生産国の新興国通貨が売り圧力に晒されやすい一方、資本財出荷国(日本、ユーロ圏、スイス、スウェーデンなど)や高付加価値製品を生産する新興国の通貨(一部の東アジア諸国)はアウトパフォームしやすいだろう。

最後に弱気シナリオでは、財政拡張が規模・時期ともに失望を招く結果となり、昨年11月以降に市場で織り込まれてきた政策期待やアニマルスピリットが剥落していくというものだ。経済政策の失敗を受けたトランプ政権は有権者の支持確保に向けて保護主義政策を一層推進するリスクもあろう。この場合、市場の米利上げ期待も大きく後退する中、米金利と米株価が低下し、2011年以降の長期ドル高トレンドが早期に終えんを迎えよう。

市場ではディフェンシブ型ポートフォリオへの資産再配分が進み、安全通貨である円やスイスフランが買われる一方、新興国通貨のうち、世界経済・米国経済の需要ショックに左右されやすい東アジアやメキシコは下落圧力に晒されるだろう。最近のオバマケア交渉の結果を踏まえると、リスクはどちらかというと弱気シナリオに傾いていると思われる。

トランプ政策は米国経済やドルのみならず、グローバルな金融市場に大きな影響を及ぼす。その根幹の1つだったオバマケア撤廃が暗礁に乗り上げた今、他の政策を巡る交渉も一筋縄ではいかないリスクが高まっており、幅広い政策シナリオを想定しておくことの重要性が増している。

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コラム:不安先行のトランプ円高は短命か

尾河眞樹 ソニーフィナンシャルホールディングス 執行役員・金融市場調査部長

[東京 27日]
昨年11月8日に行われた米大統領選後のドル円相場を整理すると、3つのステージに分けられる。第1ステージは、11月8日から1月20日までの「トランプ・ラリー」だ。トランプ大統領の掲げてきた減税やインフラ投資といった景気刺激策への期待から、期待インフレ率と米長期金利が上昇し、米株価とドル円がパラレルに上昇した。

第2ステージは1月20日の大統領就任式から3月15日前後までで、トランプ大統領による保護主義的な発言が目立ったことにより、ドル円は軟調に推移した一方、米株価は続伸。米株価とドル円の相関性が完全に崩れ、「保護主義懸念相場」となった。

そして、3月中旬から足元までの相場は、第3ステージに入りつつある。今度は、米株価とドル円の相関性は戻ったが、これまで堅調だった米株価が反落し、同時にドル安円高が進んでいる。投資家の不安心理を示すVIX指数(別名「恐怖指数」)もじわり上昇するなど、リスクセンチメントがやや悪化しつつあるが、背景にはトランプ政権の「政策実行性への懸念」がある。

<第3ステージのドル安円高進行余地>

きっかけはトランプ大統領が3月16日に発表した、来年度予算の概要(A Budget Blueprint to Make America Great Again)だ。これは、あくまで「裁量的支出」のみをカバーした、いわば予算案の「たたき台」である。これまで期待されていた税制改革やインフラ投資などの詳細は一切含まれていなかったことが失望を誘った。

環境保護や海外への援助、貧困対策などの歳出が2―3割カットされた一方で、国防関連、軍事費や国土安全保障、国境の壁への費用が増額されている。民主党はこの内容に真っ向から反対しているが、共和党の一部有力議員もこれに反対の姿勢を示している。

正式な大統領の予算案である「予算教書」は、通常2月上旬に議会に提出されるが、今回は5月中旬までに詳細が明らかになる予定だ。それを受けて議会で減税法案が2018年度の財政調整措置として審議される。その後ようやく歳出法案が審議されるとなると、歳出法案の成立までには、相当の時間を要することになるだろう。

トランプ大統領と共和党議会の間の溝が深まればなおさらだ。減税法案の可決・成立は、8月の議会休会までに決着がつかなければ、早くて9月末から10月初めになるとの見方もある。2018年度予算は2017年10月から2018年9月までだが、もし歳出法案を新年度までに成立させることができなかった場合は、連邦政府機能の一時閉鎖となるリスクも浮上する。

いずれにせよ、予算をめぐる各法案の審議に時間がかかり、減税やインフラ投資の実行が大きく後ずれしたり、規模が期待外れとなる場合は、市場に失望感が広がるだろう。この場合、米連邦準備理事会(FRB)の利上げペースも予想より遅くなるとの見方が広がり、ドル安が進行する公算が大きい。

医療保険制度改革法(オバマケア)を巡って米議会がこれほど揉めたことを踏まえれば、そのリスクは排除できない。トランプ政権は3月23日、同日中に予定していたオバマケア代替法案の採決を延期。翌24日、法案を撤回すると表明した。共和党の一部に反対意見が強く、可決に必要な過半数の票を確保する見通しが立たなかったためだ。

共和党内では米国版の国民皆保険制度であるオバマケアの撤廃を望む保守強硬派の議員団が、今回のオバマケア代替法案に強く反対していた。トランプ大統領が同法案撤回後「次は税制改革に取り組む」と述べたことで市場のセンチメントはいくぶん持ち直しているが、今後の議会の動向には不安が残る。

問題は、第3ステージの「政策実行性への懸念」によるドル安円高がこのまま本格的なトレンドになるのか、あるいは一時的なポジション調整にとどまるかだ。中期的に見れば5月の予算教書とその後の議会の動向が鍵を握るが、テクニカル上、短期的にはドル円は下向きの様相を呈している。

日足の一目均衡表は完全に雲を下抜けたほか、週足ベースの一目均衡表も1月中旬以降サポートとして機能してきた雲上限111.40円を割り込んだ。また、2月安値の111.69円をネックラインとするダブルトップが完成したと見れば、107.90円付近まではすでに下落余地が広がっていると考えることもできる。

4月は米財務省による為替報告書の提出や5月にかけて行われるフランス大統領選など、リスクイベントが盛りだくさんであることを踏まえれば、短期的なドル円の下落リスクには警戒したいところだ。

<ドル安円高の長期トレンド化に3つの壁>

ただ、筆者はこの第3ステージは一時的なものにとどまり、長期のドル円の下落トレンド入りを意味するものではないと考えている。第1に、今回の為替報告書で米国が中国を為替操作国に認定する可能性は低いとみている。

米財務省は「為替操作」の判断基準として、1)対米貿易黒字額が年200億ドル超、2)経常収支黒字が名目国内総生産(GDP)比3%超、3)年間のネット外貨購入が対GDP比2%超、の3点を挙げているが、中国は1点目に抵触しているのみで、3点目は自国通貨売りではないため、現段階で「為替操作国」への認定には無理がある。

第2に、フランス大統領選も、世論調査を見る限りでは極右政党の国民戦線・ルペン党首の支持率には若干陰りが見られる。おそらく秘書給与問題などのスキャンダルが影響しているのではないか。

もちろん、選挙が世論調査通りにいかないことは、昨年6月の英国民投票での欧州連合(EU)離脱選択や11月のトランプ大統領当選で実証済みであるため、引き続き警戒は必要だが、オランダの選挙結果からも分かる通り、人々は「チェンジ」を求めてはいるものの「混乱」を求めてはいないようだ。

その点、フランス大統領候補としてニューフェースのマクロン氏は政治家としてのバックグラウンドがなく、「新しさ」や「改革」が期待できる。ルペン氏が当選した場合の市場混乱の可能性も考慮すれば、マクロン氏のほうが今回の選挙では有利であると言えそうだ。

第3に、最も肝心なポイントとして米国経済が足元堅調であることが挙げられる。仮に税制改革法案の成立が遅れ、これが米国経済を押し上げる時期が後ろ倒しになったとしても、米景気が今年、腰折れに至る可能性は極めて低い。

米国のインフレ率は着実に加速しており、減税やインフラ投資の規模が期待されるほど大規模なものでなかったとしても、これらは来年の米国経済を支援しインフレ率を押し上げよう。それを見込んで米金利が再び上昇し始めれば、ドル円は緩やかな上昇トレンドに戻るとみている。

24日にオバマケア代替法案が撤回されても、市場のリスクセンチメントが悪化せず、ドル円も急落していないのは、こうした点が背景にあるのではないか。

複雑で時間がかかりそうなオバマケアはとりあえず棚上げして、トランプ大統領が述べるとおり、税制法案に早々に着手するのであれば、目先テクニカル上のポジション調整は進んだとしても、それは一時的なものにとどまり、ドル円は反転上昇すると考える。

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コラム:日米金利差拡大で円安再始動は本当か

亀岡裕次 大和証券 チーフ為替アナリスト

[東京 24日]
「2017年は、米連邦準備理事会(FRB)が利上げを進めていく中で日米金利差が拡大し、ドル円が上昇」というシナリオが、円安派の主張で目立つが、これは実現するのだろうか。ここでは、その実現性について考えてみたい。

米国の長期金利が上昇してきた主因は、インフレ期待の高まりにある。市場のインフレ期待を示すブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)は昨年11月以降に上昇が進み、今年1月には5年物BEIが2%近くまで上昇した。

トランプ大統領の当選後に米景気拡大期待が高まったこと、石油輸出国機構(OPEC)の協調減産で原油価格が上昇したこと、1月にドル実効為替が反落したこと、米インフレ率が上昇したことなどが、インフレ期待を高める方向に作用した。FRBが3月に追加利上げした理由もインフレ抑制にあるとみられる。

<米インフレ期待上昇は望み薄>

ただし、BEIは2月以降、頭打ちとなっている。原油などの商品市況が反落したこと、ドル実効為替の下落が一服したことが原因とみられる。米消費者物価(CPI)の前年比が2月に2.7%まで高まる一方で、エネルギーを除くCPIの前年比は2%未満で安定しており、インフレの主因はエネルギー価格の上昇にあることがわかる。

そして、米原油生産が増え続ける中で原油在庫の増加が目立ち始めたため、需給緩和見通しから原油価格が下落し始めた。そのことにより、インフレ率がピークアウトする可能性が出てきた。

さかのぼると、WTI原油先物価格(中心限月)は昨年2月にかけて下落し、1バレル=27ドル程度で底打ちした後、6月にかけて51ドル程度まで上昇した。これに対し、今年は1―2月に50―55ドルで推移した後、足元で47ドル台まで下落している。今後しばらくは原油価格が安定的に推移した場合でも、その前年比は2月をピークに低下していくことになる(原油価格が下落すれば、なおさらだ)。

しかも、ドル実効為替も昨年2―6月に下落したので、安定的に推移した場合、その前年比は上昇しやすい。つまり、前年比でみると、原油安・ドル高の方向に振れやすいので、インフレ率は低下しやすいのだ。

また、FRBがインフレ期待の参考指標にしているとみられる米ミシガン大学の消費者期待インフレ率は低下傾向にある。3月に、向こう5年間の期待インフレ率は2.2%と1979年の統計開始以来最低となり、1年間の期待インフレ率は2.4%と昨年12月の2.2%(2010年9月以来の低さ)に次ぐ低水準となった。

近年、消費者のインフレ期待が低下しているのは、消費者の米国景気についての現況判断が改善しても先行き期待が伸び悩んでいることと関係がありそうだ。市場のインフレ期待がさらに上昇していく可能性は低いように考えられる。

<米長期金利の上昇は進みにくい>

米国の実質金利はトランプ大統領当選後の昨年11―12月は上昇したものの、その後は反落した。米経済成長への期待が頭打ちとなっていることを反映しているのではないか。

ミシガン大学の消費者信頼感指数のうち、現況指数が3月にかけて上昇する一方で、先行きの期待指数は昨年11―12月に上昇した後に反落している。今回の景気拡大が93カ月に達し、過去3回の平均である95カ月に迫るなど長期化しているせいか、好景気がさらに続くという期待は盛り上がっていないようだ。

3月は雇用統計など強い米経済指標や米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーのタカ派的発言から利上げ期待が急浮上し、FOMCにかけては実質金利が上昇したものの、メンバーの利上げ予想ペースが加速していないとわかると実質金利は反落した。

米国は完全雇用に近づき、賃金上昇率が次第に高まりつつあるとはいえ、コア物価のインフレ率は落ち着いている。シカゴ連銀発表の全米経済活動指数(3カ月移動平均値)は2月に0.25まで上昇したが、経験則として持続的なインフレ率上昇が始まりやすいとされる0.7には達していない。もっと経済成長が高まらないと、コアインフレ率は上昇しにくいだろう。

2月は平年に比べ3度以上も平均気温が高く経済活動が活発化したが、3月は東海岸で大雪が降るなどの悪天候に見舞われた。しかも、株価は月初をピークに下落傾向をたどり、トランプ政策期待の後退から株安が進みつつある。米国景気の減速リスクが高まりつつあり、株安と景気減速が相互作用を及ぼし合う負の循環に入る可能性もある。成長期待(を反映する実質金利)とインフレ期待の両面から、米長期金利の上昇は進みにくいだろう。

<為替は日米金利差と逆方向に動くケースも多い>

そもそも、日米金利差が拡大するとドル円は上昇すると言えるのか。1990年代以降で日米10年国債金利差が拡大した9回の局面について振り返る。日米金利差拡大でドル円が上昇したのは、2001―02年と16年の2回だ。

16年つまり昨年はトランプ大統領当選後、大型減税などの政策期待を背景に米株価・金利とともにドル円が上昇した。一方、01―02年は日米金利差拡大だけでなく、日銀の量的緩和導入(日本のマネタリーベース増加)も円安に寄与した。

日米金利差拡大とドル円上昇の相関が低いのが、96年、05―06年、09年、13年の4回だ。96年は金利差拡大でドル円は上昇したが、金利差が縮小に転じてもドル円は上昇を続けた。95年4月の先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)での「為替の秩序ある反転が望ましい」との声明とドル買い協調介入を受けてドル円上昇が続いていたのであり、金利差拡大が主因ではなかった。

05年は米本国投資法による米国への資金還流でドル円が上昇、06年は反動でドル円が下落したが、金利差とドル円の相関は低かった。09年は金利差拡大を背景に短期的にドル円が上昇後、日本の貿易収支改善と米国の貿易収支悪化を背景にドル円は下落に転じた。13年は5月にかけて日銀の量的緩和を背景にドル円が急上昇し、日米金利差が拡大した年後半はドル円上昇が鈍った。

日米金利差拡大の一方でドル円が下落したのが、94年、99年、10―11年の3回だ。94年は金利差が大幅に拡大したにもかかわらず、当時のクリントン米政権からの円高圧力を背景にドル円が下落した。99年は金融危機から脱した日本経済の回復が円高に働いた(当時は景気回復・円高)。10―11年は金利差が明確に拡大したものの、東日本大震災によるリスクオフが円高に作用したことなどから、ドル円はわずかに下落した。

つまり、日米金利差が拡大してもドル円が上昇するとは限らない。為替が他の要因に左右されて日米金利差と逆方向に動くケースも多いのだ。今後は、トランプ政権の保護主義が円高・ドル安圧力となる可能性がある。米国が円安や日本の貿易黒字への懸念を示す口先介入だけでなく、日本に金融緩和縮小圧力をかけることも考えられる。

米国の長期金利が明確に上昇するような状況でないと日本の長期金利も上昇しにくく、日銀が国債買い入れを縮小しやすいはずだ。日米金利差が縮小する可能性は十分にあり、たとえ日米金利差がわずかに拡大しても米保護主義による円高・ドル安によって打ち消されやすいだろう。いずれにせよ、日米金利差拡大によるドル円上昇のシナリオは描きにくい。

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円高リスク、焦点は「トランプ円安」半値戻し

日本経済新聞  経済部 中西誠

年度末の外国為替市場で円高リスクが高まっている。トランプ米大統領の政権運営に対する失望が高まり、円買い・ドル売りが進行。27日午前の東京市場で円相場は一時1ドル=110円26銭まで上昇した。心理的節目の110円が近づいており、それを上回ると昨秋から昨年末の急激な「トランプ円安」の半値戻しとなる109円90銭程度がすぐに視野に入る。市場関係者は特に後者を意識しており、これを突破すると円高が加速しかねない。

前週末の24日、トランプ米大統領は看板政策である医療保険制度改革法(オバマケア)の代替法案を撤回した。与党共和党内の保守強硬派から反対の動きが出るなどして調整が難航し、議会下院で採決できなかった。

一方でトランプ氏は「これからすぐに税制改革に動く」とぶち上げた。税制改革は減税による米景気の上振れにつながるとして昨秋の大幅な円安・ドル高の主因となったが、27日の東京市場では「オバマケアを巡り調整がつかなかっただけに、税制改革の実現を不安視する動きが強い」(国内銀行)との指摘が出ている。

前週末の米国市場では「オバマケア修正より税制改革の協議が今後先行する」との見方から一時的に円高修正が進んだものの、大きな流れとしては米政権の調整力を不安視した円買い・ドル売りが優勢だ。

目先の円高の節目は110円だが、市場がより注目する節目はそれを上回る109円92銭だ。昨秋の大統領選に勝利したトランプ氏による減税を含む経済対策期待などから、円相場は101円19銭から118円66銭まで急ピッチで下落。その値幅の半分が帳消しになる水準が109円92銭で、「これを突破すると一段の円高が進みかねない」(みずほ銀行の田中誠一氏)。

一般的に相場が一方向に動いた場合、利益確定などのため反対取引が起きる。しかし半分以上も反動が出れば利益確定どころでなく相場の方向性の転換が強く意識される。昨秋からの円相場に当てはめれば、米大統領選以降にすすんだ大幅な円安の反動が半分以上になりかねない状況にある。このため市場参加者は円相場が109円92銭を突破するかを注目している。

円は安全通貨の側面があり、市場でリスク回避の動きが強まると新興国通貨などが売られる対価として上昇しやすい。「足元で新興国通貨の相場は底堅く、円高・ドル安の動きは行き過ぎ」(外資系証券)との声もある。しかし円の対ドル相場が半値戻しの109円92銭を上回れば、米大統領選時の101円程度に向けた新局面入りが市場で意識される可能性がある。

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コラム:米政府要人の口先介入で円高は進むか

植野大作 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ為替ストラテジスト

[東京 21日]
トランプ米新政権の発足後で初めてとなる20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が先週末にドイツで開催された。ムニューシン米財務長官の「G20デビュー」とあって、国内外のドル円ファンの注目度は非常に高かった。

「ドルベア(弱気)派」はムニューシン財務長官によるドル高けん制コメントの配信を期待していた一方、「ドルブル(強気)派」は警戒して身構えていた。ただ、G20開催に先立ちショイブレ独財務相と会談したムニューシン財務長官は「長期的に見た最善の利益という点で、ドルの上昇は良いこと」などと発言、市場に失望と安堵が同時に広がった。その後の麻生太郎財務相との会談でも「日米通貨摩擦」を連想させるような発言はなかったようだ。

G20終了後に公表された声明文を見ても、為替については「過度の変動や無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与え得ることを再確認」「通貨の競争的な切り下げを回避することや競争力のために為替レートを目標とはしない」など、従来の表現が踏襲されていた。ひとまず無難なイベント通過になったと言えるだろう。

<消えていない日米通貨戦争の可能性>

だが、安心するのはまだ早い。ムニューシン財務長官によるこれまでの発言履歴を見る限り、「長期的なドル高の重要性」について繰り返し述べつつも、「短期的なドル高の悪影響」に言及する時もあり、発言内容は必ずしも安定していない。

米国で為替売買介入の権限を握っているのは財務長官だが、為替口先介入の方向性に関しては、金融政策や財政政策のように、意見の違う人々の主張を多数決などのルールに則して集約する仕組みが確立されていない。このため、日米ともに財務相以外の政府要人らの為替に関する発言が、思わぬ乱高下を引き起こすケースもしばしばある。

2月の日米首脳会談のあと、トランプ大統領は日本の金融政策や通貨政策に対する「口撃」を封印しているが、面談する相手や場所によって発言の内容をコロコロ変えるのは彼の特技だ。いつまた批判を再開するのかしないのか、本人以外には分からない。

3月に入って、米国ではナバロ国家通商会議委員長が日本の非関税障壁に対する不満を述べたほか、ロス商務長官も他国の通貨安政策を批判したと解釈される発言を連発している。この先、トランプ大統領以下の米政府要人が、日時不定で為替市場に波乱を呼ぶ発言を配信する可能性は否定できない。

特に、4月から始まる日米経済対話には要注意だ。米国の通商閣僚らを中心に、日米貿易不均衡を問題視する発言が相次ぐなら、「日米通商摩擦の再燃=円高・ドル安」との連想が、為替市場の一部で盛り上がる可能性はある。対して、日本政府の要人がカウンターで発言するなら、非常に不毛な「日米通貨戦争勃発」との印象が市場に広がるかもしれない。

ただし、米政府要人による口先介入の神通力だけでは、ドル円相場に短期的なショックを引き起こすことはできても、長期的なすう勢までコントロールすることはできないだろう。そのように考えている理由として、以下4点を挙げておきたい。

<「強い米国」と合致しない「弱いドル」>

第1に、近年の為替市場の規模の膨張や参加者の多様性の増大などを勘案すると、特定の個人や組織が口先で「望ましい為替相場」の方向に対する想いを伝えるだけで、長期的な通貨のトレンドを支配するのは恐らく無理な時代になっていると思われる。

国際決済銀行(BIS)が昨年4月に行った出来高調査によれば、1日平均の「ドル円」売買金額は9020億ドルだった。当時の平均レートである1ドル=109.65円、年間の為替営業日数=約250日として換算すると、ドル円市場の売買金額は年率2京4700兆円にも達していた計算になる。

為替市場よりはるかに規模が小さい国内外の債券・株式市場でも、金利や株価は政府の意のままに操ることはできない。天文学的な金額の売買が日々飛び交っている為替市場において、日本の首相や財務大臣が言霊(ことだま)の力で円の水準や方向を操作できないのと全く同じ理由で、米国の大統領や主要閣僚であっても、ただ発言するだけでは、恐らく一時的なショックを市場に与えられるだけだ。ドル円相場のすう勢まで支配するのは難しいだろう。

第2に、トランプ政権が目指している経済・軍事政策の方向性と合致していない口先介入によるドルのトーク・ダウンには限界がある。

米大統領府のサイトで公開されているトランプ政権の公約を見ると、「経済成長率4%を実現して強い経済を取り戻す」「国防費を増額して世界最強の米国軍を強化する」などの主張が列記されている。世界最強の経済と軍隊を強化する政策を進めながら、為替市場への口先介入だけでドルの価値をすう勢的に減価させ続けるのは長期的には難しそうだ。

また、本当に実施する気かどうか分からないが、トランプ大統領は「国境調整税を導入して米国の貿易赤字を退治する」とも主張している。実際にそんな政策を実施したなら米国の貿易赤字はドル安にしなくても減る力が働くので、逆にドル高圧力が発生する可能性も指摘されている。

そもそも、国境調整税で輸入品に税負担を求めた場合、原材料や部品、生活必需品が値上がりして苦しむのは米国の企業と国民なので、税負担の上昇分と同じ割合でドル高にならないと、経済に深刻な打撃が及ぶ。「国境調整税による貿易赤字削減」は、その成り立ちからしてドル高圧力の発生を前提にした政策である。

<孤高の利上げ観測がもたらすドル高圧力>

第3に、米国の大統領に就任後、トランプ氏のドルに対する考え方が微妙に揺らいでいるきらいもある。2月9日、一部の米系メディアは具体的な日付は不明としながらも、大統領が深夜3時に国家安全保障担当のフリン(当時)補佐官に電話をして「強いドルと弱いドルのどちらが米国経済にとって良いのか」と尋ねたエピソードを紹介して話題になった。

ドル高には米国の輸出競争力を減退させる弊害がある一方、輸入物価の下落を通じて国内需要を刺激するプラス面もある。逆にドル安を進め過ぎると米国の輸出競争力が向上する一方で輸入物価は大幅に上がるので、苦しむのは米国の消費者や零細企業だ。

米国の大統領は、行政府の最高権力者であると同時に米国軍の最高司令官も兼ねている。世界中で過激派組織と戦う米国の兵隊に持たせる武器やドルは強い方が良いに決まっており、恐らく「米国にとって望ましいドル政策」に関して、様々な立場や考え方の人々からの意見がトランプ大統領の耳に入っているのだろう。

第4に、主要通貨圏で米国だけに「孤高の利上げ観測」が発生している現下の局面では、口先介入によるドル安誘導に強力な推進力を期待するのは難しい。この先、米国に景気失速懸念が台頭して利下げ観測に由来するドル安圧力が強まっている時期にドルのトーク・ダウンを試みるなら強力な効果を発揮しそうだが、イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長が「年内3回」の利上げ見通しに自信を示している間は、難しそうだ。

いずれにしろ、米国の現政権が実際に行っている諸政策とのチグハグ感が否めない状態では、為替口先介入によるドル安誘導に賞味期限の長い神通力を期待するのは難しい。為替相場の循環変動を決める要素はたくさんあり、人によって「何を重視すべきか」の好みはあって然るべきだが、筆者は「要人発言」にあまり重きを置いていない。すう勢判断の軸足はファンダメンタルズに置く姿勢を維持したいと考えている。

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「トランプ政策迷走」だけでない、市場が慎重になる10の要因

[ロンドン 22日 ロイター]
昨年11月の米大統領選以降、大躍進してきた世界の株式市場に陰りがでてきた。上げ相場の材料となっていたトランプ米政権の減税、インフラ投資、金融規制緩和の具体的な内容が示されないことに失望感が広がっている。

きっかけは、内政の最優先課題の一つ、オバマケア(米医療制度改革法)の改廃を巡る迷走。代替法案で、与党・共和党内の足並みが揃わず、通過のめどが立たない。

しかし、相場に影響を及ぼしているのはそれだけでない。以下に10の要因を挙げた。

1)金利

量的緩和(QE)やマイナス金利など、約10年にわたる超緩和的な金融政策の結果、世界はいまだにカネ余り状態にあるが、潮目は変わりつつある。米連邦準備理事会(FRB)は2回政策金利を引き上げ、さらなる利上げを想定。欧州中央銀行(ECB)は、政策金利の一つを予想よりかなり早く引き上げることを検討していることをほのめかしている。それが、たとえタンカーの進路変更くらい緩やかな動きだとしても、市場は神経質になっている。

2)イールドカーブ

米フェデラルファンド(FF)金利や短期金利が上昇しても長期金利は上昇しない──イールドカーブ(利回り曲線)の「平坦化」と称される長短金利差の縮小は、投資家が金利の大幅上昇を正当化するほど経済成長や物価上昇の勢いが強くないと考えていることを示唆し、しばしば成長鈍化やリセッション(景気後退)の前触れともされる。

3)銀行

イールドカーブの平坦化は、短期で資金を調達し長期で貸すことによって利ざやを稼ぐ銀行にとってマイナスだ。米大統領選後、長短金利差が拡大(イールドカーブのスティープニング)し、それで金融株が上昇し、相場全体を押し上げた。しかし、3月に入って金融株に陰りがでてきた。トランプラリーで30%上昇した米金融株は、ピークから10%値下がりしたが、さらに下がる可能性がある。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ(BAML)の直近の運用担当者調査によると、銀行株はかなり買い持ちが積み上がっている。米金融株.BKXは21日、4%安と昨年6月以来最大の下げを記録した。

4)ポジション(持ち高)

BAMLの調査結果で注目されるのは、株価が過去17年で最も過大評価された水準にあるということだ。しかし、米大統領選後の上昇相場の長さを考えると、さほど驚くことでないとも言える。ダウ指数は42日かけて1000ドル上昇し2万ドルの大台に乗ったが、そこから2万1000ドルに到達するのは24日しかかからなかった。BAMLのマイケル・ハートネット氏は、株価の水準とポジションの状況から「3月/4月にリスクラリーが一服」するとみている。ポジションの偏りは、株だけでない。ドルがかなりロングに傾き、強気一色の様相を呈する一方、債券への投資資金配分はここ3年で最低だ。

5)相関性

いわゆる平時には、市場の動きには一定のパターンがある。ドルが上昇すると、原油などのコモディティ(商品)が下落、ドルが下げればコモディティが上がるといった具合だ。これは、コモディティがドル建てで取引されるためで、ドルとコモディティはしばしば逆の動きをみせる。しかし今週は、ドル、原油、銅、その他コモディティがそろって下落。相関あるいは逆相関関係の崩れは、投資家がリスクオフ姿勢になっていることを示唆する。

6)市場のマイルストーン

市場のムードが暗転し、資産市場が下落すると、節目的な水準が意識されるようになる。大台など、きりのいい数字もそうだ。

ドル指数は今週100.00を下回った。北海ブレント原油先物の50ドル割れ、米10年債利回りの2.50%割れなど、節目を突破ないし割り込むと、市場の転換点のシグナルと言われることが多い。持ち高が偏っている時は特にそうだ。

21日米株市場では、ダウとS&P500が米大統領選前の昨年10月以来、初めて1%以上下落した。恐怖指数と呼ばれるVIX指数が2カ月超ぶりの水準に上昇したのも当然といえる。

7)経済のサプライズ

世界経済が緩やかなペースで推移している間に、モメンタムが弱まっている可能性がある。米シティグループが算出している主要国の経済サプライズ指数は、概ね横ばいないし徐々に低下している。特に顕著なのが英国とユーロ圏のそれで、日本はマイナス圏に落ち込んだ。これは、想定されるトランプ政権の刺激策が与える経済へのプラス効果が薄れていることを示し、金融市場にとって好ましくない兆候だ。

8)ブレグジット(英国のEU離脱)

昨年6月の英国の欧州連合(EU)離脱決定は、とりあえず多くの専門家が懸念していた経済への大打撃をもたらさなかったが、状況は徐々に変わりつつあるようだ。英政府は3月29日に正式に離脱を通知するが、成長は減速しており、企業の投資は凍結、物価が大幅に上昇し実質所得が目減りしている。さらに、離脱が企業や市場に与える影響が不透明で、スコットランドでは独立の是非を問う住民投票を再度実施する機運が高まっている。

9)四半期末

カレンダーは重要な要因だ。投資会社、ファンド、銀行、その他市場参加者は毎四半期末に会計処理などの理由でポートフォリオや帳簿をお化粧する。第3・四半期末まで残すところ1週間となり、利益確定の動きを強めているとみられる。

10)バリュエーション

昨年11月の大統領選挙の日、S&P500指数の予想PER(株価収益率)は16.6倍から18倍超に上昇し、米株は2004年以降で最も割高となった。一方、同指数の配当利回りは2%強と、約2.4%の米10年債利回りに劣る。不透明感が広がる中、企業利益が伸びるかどうかが問題だ。

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