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「円安ラリー」いつまで 5年前は転換のサイン

日本経済新聞 経済部 今堀祥和

円安が止まらない。東京市場の17時時点レート(日銀公表)でみると10日、円相場は12営業日続落した。11日午前も1ドル=114円台を維持し推移している。これほどの長期間にわたって円が連日下落したのは、2012年2月以来だ。円安・株高のラリー(相場上昇)はいつまで続くのか。5年前の経験をひもとくと、足元の相場と共通点があった。

東京市場で円の続落が始まったのは先月19日。同日終値は1ドル=108円台後半だった。足元では1ドル=114円台前半と5円強の円安・ドル高が進む。米金利上昇を受けた日米金利差の拡大を背景にしているが、一本調子の円安に戸惑いをおぼえる市場参加者も多い。

12年2月の場合、ラリーの起点は2日。そこから24日まで円は対ドルで17営業日続落し、80年代以降の最長記録を更新した。下げ幅は1ドル=76円台前半から80円台半ばまでの4円あまり。けん引したのは日銀の金融緩和と経常黒字の縮小観測など国内要因だった。日銀は同月14日に資産買い入れ基金を10兆円増額する追加緩和の発表にあわせ、「中長期的な物価安定のめど」を初めて導入した。消費者物価上昇率で前年比1%を目指す事実上のインフレターゲットを導入したと解釈され、日銀が緩和姿勢を強めたと受け止められた。

ではこの歴史的な円安ラリーはどう終わったのか。年前半のピークである1ドル=84円台を付けた3月15日を折り返し地点に、9月13日に1ドル=77円台半ばで底を打つまで、半年間緩やかな円高・ドル安トレンドが続くことになった。この際に材料視されたのは米経済指標の悪化や欧州金融不安に加えて、日本の貿易収支が黒字に戻ったことだった。

ここに、足元と同じ構図をみる。財務省が11日発表した16年度の経常収支の黒字は金融危機前の07年度以来9年ぶりの高水準だった。貿易黒字の大幅拡大が寄与した。貿易収支は13年度につけた11兆円の赤字から、16年度の5兆7000億円の黒字までV字回復を遂げている。経常収支は3月単月で見ても2兆9000億円の黒字だった。

貿易黒字が拡大すると、企業が得た外貨を円に交換する需要が増えるため円高につながりやすい。また米国から見ればドル高是正に乗り出すインセンティブとなる。実際、ロス商務長官は先だって公表された3月の米貿易統計にあわせて日本を名指し「膨張した貿易赤字に耐えられない」との声明を出した。

トランプ大統領が近く発表する予算教書で大型減税策やインフラ投資を実行する道筋を示せなければ、政権への期待はさらにしぼみそうだ。国内の不満を再び為替への「口先介入」で解消しようとする懸念がある。三菱東京UFJ銀行の内田稔氏は「年末にかけて1ドル=103円まで円高・ドル安が進む可能性がある」と指摘する。

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円高を促す魔物、米中外交の「朝海の悪夢」

日本経済新聞 編集委員 滝田洋一

円、人民元、韓国ウォン。朝鮮半島情勢が緊迫化するなか、アジア通貨のなかで円ばかりが上昇圧力を受けやすくなっている。北朝鮮の核をめぐる外交戦の裏側で、通貨同士のつばぜり合いは激しさを増している。

「中国を為替操作国に指定しない」。トランプ米大統領はその理由として、北朝鮮政策での中国の協力取り付けを挙げた。核と通貨を絡ませる手法は、いかにも「交渉人」を自任する大統領の真骨頂ともいえる。

半年ごとに米議会に報告する「為替政策報告」で、中国への為替操作国の指定がなかったので、市場も落ち着くはず。本来なら一件落着のところ、そうは問屋が卸してくれない。大統領がドル高を強くけん制しているからだ。

トランプ政権の意向を忖度(そんたく)した市場参加者が、ドル売りの相手通貨として人民元ではなく、円を選択しだしたのだ。かくてドル安圧力は人民元を素通りして、円高・ドル安の場面を迎えている。

米中が激しく対立しているようにみえて、ある朝目覚めたら日本の頭越しに握手している。そんな事態を冷戦下の1960年代に駐米大使を務めた朝海浩一郎氏は懸念した。

外交関係者のいう「朝海の悪夢」である。この悪夢は71年7月の電撃的なニクソン訪中発表で現実のものになった。対中強硬姿勢を売り物にしていたトランプ政権の下で、同じ事が繰り返されようとしているのだろうか。北朝鮮情勢とも絡み今回、東京市場の参加者が抱く懸念である。

円は韓国ウォンとの関係でも、上昇圧力を受けやすくなっている。アジア通貨のなかでは、北朝鮮と接する、韓国のウォンが売られている。それ自体は自然な動きとはいえ、反射的に円が買われるのだから難儀だ。

為替政策報告では、韓国ウォンは人民元や円とともに監視対象リストに挙がっている。何しろ韓国の経常黒字の国内総生産(GDP)比は2016年には7.0%。日本の3.7%の2倍近くにのぼる。このため、ウォン相場は上昇圧力を受けていたのだが、有事のウォン売りによって帳消しにされた。

韓国ウォンの対ドル相場をみると年初来3月末まで7.4%急騰した後、4月に入ってからは約3%下落した。韓国紙「中央日報」は「当面はドル安(ウォン高)に変わる要因は多くない」との見方を伝える。

こうした為替相場の動向を敏感に映しているのは、日本と中韓の株式相場だ。もともと外国人投資家のウエートの小さい中国の上海総合指数は、3200台で比較的底堅い動きとなっている。

韓国総合指数も2100台と大きく値崩れしていない。典型的なのは副会長が逮捕されたサムスン電子で、何と最高値圏にある。日本と韓国はグローバルな市場で競合している製品が多い。時ならぬウォン安で、韓国の輸出企業が、追い風を受けている。

大きな外的ショックが日本に不利に働いたのは、2008年のリーマン・ショック後と似ている。当時も円はドル安圧力を一身に受けた。

中国は08年夏から人民元のドル連動を復活させることで、嵐をかわした。韓国のウォンはリーマン・ショック後、対円相場が半値になった。韓国の場合は国際金融市場の不安が沈静した後も、ウォン安を維持するための為替操作が実施されていた。

足元のテーマは金融不安ではなく、北朝鮮の核危機。とはいえ、為替相場への波及には油断がならない。18日にはペンス米副大統領が来日し、日米の経済対話が開かれる。対話の主役となる麻生太郎副総理は、20日には訪米しムニューシン米財務長官との会談に臨む。

2月の日米首脳会談の際に、為替は副首相と副大統領レベルの問題ということで、日米間の仕切りはできている、というのが日本側の理解。そうならば、とんでもない円高の加速はないはずだが、しばらくは円から目が離せない局面が続く。

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コラム:遠のくトランプ大減税、米景気悲観は不要

竹中正治 龍谷大学経済学部教授

[東京 5日]
税制改革、インフラ投資と並んでトランプ政権の目玉の1つだった医療保険制度改革法(オバマケア)の改廃法案の可決に失敗したことで、同政権の先行きに不透明感が濃くなった。

議会共和党の幹部とトランプ大統領は、税制改革法案の組成に向かうと言っており、同政権への期待はまだ剥落していない。しかし、税制改革について議会共和党の首脳部は財政赤字を膨張させない「歳入中立(revenue-neutral)」の方針を貫こうとしているようだ。国境調整税の導入や法人税率の引き下げを伴う改革も、税収入全体ではあまり減らないものになる可能性が高い。

つまり「トランプ大減税で今後10年間に4―6兆ドルの減税」という選挙キャンペーン、並びに大統領就任直後まで語られてきた減税の「大盤振る舞い」が実現する可能性は大きく後退しつつあると考えた方が良いだろう。そうなれば大減税がもたらす短期・中期的な景気の大上振れというシナリオも消える。

それでは期待剥落で株価もドル相場も急落、長期金利も低下基調になるかと言うと、それほど単純でもない。なぜなら米国の実体経済は水準としては底堅く、方向としては上向いているからだ。今後は過剰な期待の下方修正と底堅い実体経済の双方がどの辺に収束するかがポイントとなる。本論では、こうした条件下での2018年末までの長期金利を推計してみよう。

<高い景気楽観度と低い大統領支持率のパラドックス>

まず現下の米国経済の様相は、景気の先行きに対する各種の信頼感指数(confidence index)が実体経済の動向を超えて大きく上振れていることが特徴だ。これは消費者から大企業、中小企業の経営者まで広範囲に見られる。

例えば米国のコンファレンス・ボードが公表する消費者信頼感指数は2016年10月の100.80から直近3月は125.60に急上昇し、リーマン・ショック前の高値である2007年8月の111.90の水準を超えている。

また、大企業経営者の景況感調査であるCEOエコノミック・アウトルック指数(四半期ベース)は、2016年10―12月期の74.2から2017年1―3月の93.3に19.1ポイント上昇している。四半期の上昇幅としては2009年10―12月期以来の大きさだ。

さらに、中小・個人事業経営者層の同種の調査データであるNFIB(National Federation of Independent Business)小規模事業楽観度指数は、2016年10月の94.1から直近3月の105.3に急上昇している。これは2004年1月の107.70に次ぐ高さだ。

ところが一方で、トランプ大統領に対する支持率は、ギャロップの調査によると35%で、就任後間もない大統領への支持率としては異例なほど低く、不支持率は59%と高い(3月28日時点)。このパラドックスをどのように理解したら良いのだろうか。

もちろん、雇用、賃金、企業利益など2016年まで緩やかな回復が続いてきたので、その累積的な変化が消費者から経営者層まで主観的な景気楽観度(confidence)を押し上げている面はある。海外の景気も穏やかに上向いてきた。しかし、それだけでは各種の景気楽観度指数が2016年11月を境にそれまでのトレンドから上方屈折的に急上昇していることを説明できない。上方屈折が生じたタイミングから判断して、こうした主観的な景況感の急上昇も「トランプ現象」の一部と考えられる。

筆者が考えるに、このパラドックを説明できるのは「隠れトランプ支持者仮説」である。選挙前の大統領候補支持率調査ではトランプ候補は地域別支持調査でも明らかに劣勢だった。ところが、実際の大統領選挙結果ではトランプ票が意外に伸び、大逆転の結果となった。このギャップの説明として指摘されたのが「隠れトランプ支持層」の存在だ。彼らは選挙前の候補者調査では「トランプ候補支持」とは答えなかったが、選挙では同氏に票を投じたわけだ。同様のギャップが大統領支持率調査と景況感の調査の間に生じているのではなかろうか。

つまり「あなたはトランプ大統領を支持しますか」と問われると、就任後も大統領にふさわしくない言動を繰り返している同氏を「支持します」と答えることに躊躇(ちゅうちょ)する。しかし、既存の政治家・政党にうんざりし、トランプ大統領が何かしらの快挙を遂げ、経済的なブームを起こしてくれると密かに期待している人たちが意外に広範に存在していると考えると、上記のパラドックスは辻褄(つじつま)が合う。

もっとも、「隠れトランプ支持者」というのは一種の比喩であって、実際はそうした心情的な傾向が広範に存在していると言った方が適切だろう。この推測が正しければ、今後トランプ政権の支持率の実相は、政治面の支持率調査に上記の景気楽観度指数類を参照して判断すべきだろう。

そうした期待の一方、経済学の目で見れば、トランプ政権の掲げる政策の中に米国の長期的な経済成長率を押し上げるようなものは、ほとんど見いだせない。「規制緩和政策」にはそうした可能性があるが、成長促進のための規制改革という難しい調整を実行できる能力を同政権が備えているようには見えない。大看板の保護主義政策や反移民政策は成長マイナス政策である。

短期・中期的に唯一景気を上振れさせる可能性のあった大減税やインフラ投資による拡張的な財政刺激は、冒頭に述べた通り、議会共和党の首脳部の意向で実現しそうにないか、あるいは大幅にスケールダウンしそうである。したがって、いずれ過剰な期待は剥落し、高騰した景気楽観度指数類は実体経済に見合った水準まで低下するだろう。

<実体経済の底堅さが救い>

ただし、それは必ずしも悲観的なシナリオを意味しない。前回コラム「日本経済の春はいつまで続くか」(2017年2月27日付)で述べた通り、2009年を底に始まった米国経済の回復は失業率が4%台後半(4.8%、2017年2月)まで下がった結果、景気回復の終盤局面に入り始めてはいるが、まだ回復継続の余裕はある。

米株価にはやや高値感も出ているが、リーマン・ショック前やITバブル時のような金融・投資面で目立った過剰な信用膨張や不均衡も生じていない。自動車ローンの延滞率上昇を懸念する向きもあるが、自動車ローンは米国家計債務に占める比率で10%以下であり、その延滞率の上昇は住宅ローン危機のようなマクロ経済に大ショックを起こすものにはなり難い。

大きな外生的なショックがなければ、次の米国の景気後退は物価上昇を受けた金利上昇によってブレーキがかかるという戦後典型的に繰り返されたものになろう。むしろ今の局面で大減税などやってしまう方が、不必要な景気の過熱から、金利高とドル高を経て、その後の反動的で大きな景気後退を起こすリスクが高まるだけだ。

次に米連邦準備理事会(FRB)が予想(3月公表時点)する2.1%程度の経済成長が2018年末まで続いた場合、長期金利(10年物国債利回り、2.4%、3月31日現在)がどの程度上昇するか、推計してみよう。

トランプ相場が始まる前の当コラム「ドル長期金利はどこまで上がるか」(2016年9月27日付)では、ドルの長短金利格差と国内総生産(GDP)ギャップの相関関係の高さに注目し、推計を行った(因果関係としてはGDPギャップの変化が原因、長短金利格差が結果)。

GDPギャップとは、実際のGDPと経済がフル稼働した場合に実現できる潜在的なGDP成長の乖(かい)離度を示すものだ。需要不足の景気後退局面では「実際のGDP<潜在GDP」となり、GDPギャップはマイナスとなる。景気が回復するに伴いGDPギャップのマイナスは縮小し、好況期にはプラスに転じる。連邦議会予算局(CBO)の直近の推計では2016年10―12月期のGDPギャップはマイナス0.9%である。

その後の検証で、長期金利(10年物米国債利回り)の変化は、1)GDPギャップ、2)短期金利(翌日物フェデラルファンド金利)の2つの独立変数を使った重回帰分析で高いレベルで説明できることがわかった。期間2000―16年の月次データによる回帰分析の結果、変数間の関係性は有意(関係性が偶然でない)で、説明度を示す決定係数(R2)は0.82である。これはGDPギャップと短期金利の変化で長期金利の変化の82%を説明できることを意味する。

また、それぞれの変数の関係を見ると、短期金利の1%ポイントの上昇は長期金利を0.63%ポイント上昇させる。さらにGDPギャップ1%ポイントのプラスの変化は長期金利を0.20%ポイント低下させる。掲載図には10年物米国債利回りの実績値と推計値を示した。もちろん推計値は実績値とぴったり重なりはしないものの、そのトレンドによく沿っていることがわかる。

「GDPギャップのプラスの変化(=景気回復の進行)が長期金利を低下させる」との点に首を傾げる読者もいるだろう。しかし、昨年9月の論考で述べたように、GDPギャップと長短金利格差には負の相関があることを想起していただきたい。

景気後退局面への移行局面(GDPギャップはマイナスに変化)では、金融緩和で短期金利が長期金利よりも急速に低下するので長短金利差は拡大する。一方、景気回復の終盤局面(GDPギャップはプラス)では金融引き締めで短期金利は高水準になるが、景気の天井感が次第に強まり、長期金利は上げ渋るので長短金利差はむしろ縮小する。この結果、GDPギャップと長短金利差の関係は負の相関となる。こうした事情が働いているので、長期金利を短期金利とGDPギャップの2つの要因(説明変数)で回帰分析すると、GDPギャップと長期金利の関係には負の相関が見られることになるのだ。

また、経済・金融現象の時系列的な回帰分析は対象期間を変えると、変数間の関係性を含む回帰結果ががらりと変わってしまうことがよくある。しかし、期間を1990―2016年、2005―16年に換えて同様の分析をしても、安定的に同じ関係性が見られることを言い添えておこう。

<米10年債利回りは来年3%超えへ>

さて、以上の回帰分析で得られた推計式を使用し、3月に公表されたFRBの経済見通しに従って2018年末までの長期金利を推計してみよう。FRBの見通しでは、実質GDP成長率は2017年、2018年とも2.1%、フェデラルファンド金利は2017年末1.4%、2018年末で2.1%である。これは0.25%の金利引き上げを年平均3回実施した場合(今後2018年末まで5回)にほぼ等しい。

この想定で得られる10年物米国債利回りの予想推計値は、2017年末で3.0%、2018年末で3.5%となった。ちなみに期間1990―2016年から得られる推計式を使うと2018年末の予想値は3.4%、同じく2005―16年では3.1%となる。

もちろん、この種の推計は確率的なブレを伴うものだ。大ざっぱに可能性の高いブレの範囲は2%台後半から4%前後程度のレンジとなる。結論として、2018年末までには10年物米国債利回りは3%を超える可能性が高いと考えておくべきだろう。とりわけ昨年暮れから年初にかけた米国長期債の利回り上昇・価格低下で評価損を被った債券投資家には要注意の予想である。

今後の税制改革案で減税が大幅にスケールダウンする、あるいは税制改革法案自体が行き詰まれば、消費者や経営層の過剰な景気楽観度は低下、調整を免れない。それに伴い株価やドル相場も下落、調整局面となる可能性が高い。

しかし、実体経済の回復が継続し、FRBの穏やかな金利引き上げシナリオが続く限り、拡大する金利格差がドル相場の下落を底支えすることになろう。その結果、ドル相場の対円での下落はそれほど大幅なものとならず1ドル=100円台にとどまるのではなかろうか。もっと深いドル安・円高は、米国経済が再び次の景気後退に入る時になるだろう。

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「有事の円売り」が復活する日

日経ヴェリタス編集長 小栗太

いつから円は安全資産になったのだろう。米国によるシリアへのミサイル攻撃を機に北朝鮮情勢が緊迫するなかで「有事の円買い」の連想が働き、円高・ドル安が勢いづいている。

■リーマン危機が転機に

為替市場を取材して20年余り。最近気になるのがリスク時に安全資産とされる円にマネーが流れ込む「有事の円買い」だ。取材を始めたころは覇権国の米国にマネーが退避する「有事のドル買い」と学んだが、どこかで180度変わってしまった。

過去の日本経済新聞を調べると、10年ほど前の2006年10月の記事が出てきた。見出しは「北朝鮮リスクで円売り」。北朝鮮の核実験を受けて「有事の円売り」が強まったという内容だ。ほんの10年で市場の法則がひっくり返ったことが分かる。

いったい何があったのか。理由は2つ考えられる。1つは2000年代に入り、米同時テロやリーマン・ショックといった米国史に名を残す大事件が相次いで発生。なかでも08年のリーマン・ショックは米国市場の安全神話を根底から揺るがせ、「有事のドル買い」を弱める最大の要因になった。

そしてもう1つは、市場を占拠しつつある機械取引の急拡大だ。機械取引は過去の相場材料と値動きの相関性を読み込み、自動で売買を判断する。いったん最近の「リスク増大→円高・ドル安」という相関性を読み込めば、地政学リスクの詳細な情勢分析をすることなく円買い・ドル売りが一気に膨らむ仕組みだ。

ただ冷静に考えてみると、仮に北朝鮮情勢が緊迫した際は安全資産とされる円にマネーが流入するよりも、地理的に近い日本からマネーが流出するという解釈の方が受け入れやすいのではないか。万が一の武力衝突リスクを想定すれば、日本よりも米国の方が安全に思われるからだ。

■2段階でリスクに反応

かつて三菱東京UFJ銀行やドイツ証券で「有事の円売り」から「有事の円買い」への転換を目の当たりにしたFPG証券の深谷幸司社長は「リスク発生時の取引行動には段階がある」と指摘する。まず不透明感が浮上した時点で、市場参加者は持ち高を減らす行動に出る。例えば現状ではトランプ相場で買い上げた株式を売り、円安・ドル高を解消しようと円を買い戻す。そしてリスクが顕在化した時点では、どの国の実体経済や金融市場に悪影響が及ぶかを判断する。例えばリーマン・ショックの時は米国市場が痛むため、日本にマネーを移す動きが強まった。

11年に東日本大震災が起きた後、「有事の円買い」の連想から円高・ドル安が加速し、円の最高値を更新した。市場では当時、保険会社が被災地で発生する保険金を手当てするために海外資産を取り崩す必要に迫られ、膨大な円買いが発生するという後講釈がなされた。だが実際は東京電力福島第1原子力発電所事故が発生し、企業のサプライチェーン(部品供給網)が寸断されるなど、日本経済に深刻な影響が及んだ。結局、日本が貿易赤字に転じる過程で「有事の円買い」は大幅な円安方向に修正されていった。

FPG証券の深谷社長は北朝鮮で武力衝突が起きるような深刻な事態に進展した場合は「有事の円買い」がひっくり返り、再び「有事の円売り」に転換する可能性が十分あるとみる。

トランプ米大統領はツイッターに「中国が協力しなければ、我々が中国抜きで問題を解決する」と投稿。北朝鮮の後ろ盾である中国に働きかけ、それでも改善しない場合は単独行動も辞さない姿勢を示す。

「北朝鮮リスクで円売り」という見出しが再び紙面に載ることはあるだろうか。もっともそれは北朝鮮情勢が想定したくない事態に陥ることを意味するのだが。

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コラム:朝鮮半島有事の「日本売り」シナリオ

斉藤洋二 ネクスト経済研究所代表

[東京 13日]
「大統領不在」が長引く韓国で、青瓦台(大統領府)の安全保障対応力を不安視する声が強まる中、核保有と弾道ミサイルの高度化を誇示する北朝鮮と、「力の外交」に回帰するトランプ米政権の対立が激化。朝鮮半島情勢は緊迫の度を高めている。

朝鮮半島情勢の緊迫化はもちろん過去何度も繰り返されてきたが、日本にとってはこれまで近くて遠い話題でもあった。しかし今や、秋田沖に再三ミサイルが落下するなど経済・金融面のみならず物理的被害の可能性も排除できなくなっており、警戒レベルを一段と引き上げる必要がある。

ついては朝鮮半島リスクの本質を整理し、「有事の円買い」という長年使い古されたアクションプログラムの有効性を点検したい。

<常に「有事の円買い」だったわけではない>

「愚者は己の経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」とはプロイセンの宰相ビスマルクの名言だが、その教えるところは固定観念そして感情にとらわれることなく事実を歴史に学びつつ理性的に考えることの重要性であり、地政学リスクもその例外ではない。

1973年の変動為替相場制移行以来の44年間を振り返っても、地政学リスクはたびたび顕現化し、金融市場を揺さぶってきた。この間、特に円相場に大きな影響を与えた3種類の事案と言えば、次のようなものとなるだろうか。

●第4次中東戦争(1973年)、イラン革命(1979年)、イラン・イラク戦争(1980―88年)、イラクのクウェート侵攻(1990年)とその後行われた湾岸戦争(1991年)など日本のエネルギー事情への不安を呼び起こした事案

●世界貿易センター爆破事件(1993年)や米同時多発攻撃(2001年)など世界のマネーが集中する米国経済を揺るがした事案

●阪神・淡路大震災(1995年)や東日本大震災(2011年)など日本経済を直撃した自然災害

このうち最初に挙げた中東発の事案では、相場は初期反応としては原油枯渇への恐怖でパニック的に円安に振れた。ただ、それは一過性の「感性による円売り」とでも言うべきものだった。その後、冷静さを取り戻した投資家による「理性の円買い」が勝り、円相場は元の水準へと回帰した。

実際、湾岸戦争の引き金となった1990年8月のイラク軍によるクウェート侵攻の第一報で瞬間2―3円程度の円安に振れたが、その後の事態の長期化とともに相場の自律調整機能が働いた。為替需給や金利といった要因に支配されるところになり、秋には円は大きく上伸したのだ(8月の1ドル150円水準から120円台前半水準まで円高ドル安が進行した)。

2番目の米国発の事象では、2001年9月の米同時多発攻撃発生後にはニューヨーク株式市場が4営業日にわたって閉鎖され、再開すると暴落、さらにドル売りがもたらされた。この時期を境にそれまでの「有事のドル買い」から「有事のドル売り」へと投資家のアクションプログラムが更新されたように見受けられる。実際、2003年3月のイラク戦争勃発時においては、ドルは開戦前に上昇したが、開戦の報を受けて下落に転じた。

3番目の日本国内の自然災害による相場変動については、多くの投資家は国内資産の海外逃避を進めるというアクションプログラムを用意していると思われていた。よって円安へ動くと見られていたが、実際は2011年3月の東日本大震災の時、国内の資金需要を受けた機関投資家の海外資産売りを機に円買いが奔流となり、秋に1ドル75円まで上昇したことは記憶に新しい。

この点、行動経済学者のダニエル・カーネマン氏が著書「ファスト&スロー」で指摘している人間の思考プロセスが参考になる。同氏によれば、人間の思考には、直感的な「速い思考(システム1)」と、熟考型の「遅い思考(システム2)」がある。

つまり、実際の為替市場においても、地政学リスクへの反応は短期的にこそ「システム1」である心理的要因に支配されて、避難行動としてポジション手じまいの方向へと傾くが、心理面で平静を取り戻すと「システム2」に基づく行動に移り、需給や金利など本来の相場決定要因に視線が戻る(自律調整機能が働く)と想定できるのではないだろうか。

<システム1もシステム2も円売り示唆>

では、朝鮮半島有事に対し、投資家がとるべき対応について検討してみたい。朝鮮半島リスクの特徴は、前述した中東発や米国発の事案とは違い、有事の際は、地理的に近い日本(平壌―東京間はわずか1300キロ程度)も直接的・物理的な被害を受ける当事者となる可能性が高いことだ。

これまでの北朝鮮による核実験やミサイル発射はおおむね市場を株売り・円買いへと突き動かした。しかし、上述したように、かつての有事においては、必ずしも円買いではなく円売りの反応が散見されたことには注意が必要だ。

日本の近接したところで発生し、また物理的な被害まで想定される以上、恐怖感など直感が判断を左右することは明らかである。よって、円売りへの反応が正解なのではないだろうか。少なくとも「有事の円買い」「有事のドル売り」に固執するのは危険だ。

基本的に有事に直面した投資家がとる共通行動は、自己の安全そして自らの資産の保全を図ることであり、必然的に「ポジションクローズ」が行われるだろう。前述のカーネマン氏が指摘するように、人間は何よりも損を嫌うとの特性を有している以上、当然の行動だ。

目下の市場のポジションは過去2―3年の相場つきからほぼ中立的から若干の円買いと言えるだろう。したがって、少なくとも海外勢が行う有事のポジション調整の多くは外貨買い・円売りによる手じまいとなるのではないか(ただ、不安感から足元の円キャッシュを増やそうとする日本勢の外貨売り・円買いの動き、あるいは「有事の円買いドル売り」ストーリーに賭けた投機も、「システム1」的な行動として、ある程度起こる可能性はある)。

また、東京株式市場の外人投資家の行動を予測すれば、「日本買い」のポジションをひとまず縮小させるだろう。つまり、日本へのエクスポージャー圧縮を目指すヘッジの動きが主流となり、短期的なアクションは株売り・円売り、つまり「日本売り」ではないだろうか。

もちろん、その後の長期的な相場の動きについては、為替需給と金利などを眺めて均衡点を模索することになるだろう。ただ、熟考を経た「システム2」の行動が、円買いにシフトする保証はない。

特に朝鮮半島リスクが、1)米朝間で「軍事行動」の脅しが前面に押し出される現段階から、2)北朝鮮との関係が深い中国を巻き込み、米中対立の恐れが高まる次の段階、そして3)北朝鮮と友好関係にあるシリア、イランさらにその後ろ盾であるロシアをも巻き込んだ国々と西側諸国との軍事対決懸念が高まる最終段階へと進展していくようなことになれば、発火点に近い日本からの資金流出はいずれ段階的に加速することになろう。

このように考えると、システム1でもシステム2でも朝鮮半島有事は日本売りを示唆しており、為替ディーラーや投資家の長期行動はドル買い・ユーロ買い・円売りではないだろうか。つまり、「有事の円買い」のアクションプログラムは、こと朝鮮半島の事案絡みでは「有事の日本売り」へと上書き訂正する必要があるように思えてならない。

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「市場は円高の話題ばかり」 トランプ円安は終わり?

日本経済新聞 経済部 福岡幸太郎

外国為替市場では昨年11月に始まった「トランプ相場」による円安が消失するのではないかとの懸念がくすぶっている。「円高につながりやすい話題ばかりだ。105円は遠い未来の話ではない」。みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストは指摘する。1ドル=105円台はトランプ氏が米大統領に当選した時期の水準で、仮にそうなれば「いってこい」となる。

14日午前は1ドル=109円台前半で推移し、トランプ氏の米大統領選勝利後の昨年12月や今年1月に付けた安値の118円台から9円程度の円高だ。この1週間は米国によるシリアへの攻撃、米国と北朝鮮の間の「舌戦」による地政学リスクの高まり、そしてトランプ氏のドル高けん制発言で円が買われやすくなっている。13日のニューヨーク市場では米軍がアフガニスタンで過激派組織「イスラム国」(IS)の潜伏する地域に超大型爆弾を投下したと伝わり、一時108円台に上昇した。また米財務省が近く為替報告書を公表する予定で、円相場への言及に注目が集まる。

トランプ氏の当選以降、急速に円売りを進めた投機筋の動きが今後のカギを握る。米商品先物取引委員会(CFTC)によると、投機筋は4日時点で円を対ドルで4万5800枚(1枚は額面で1250万円)売り越しているが、売り越し幅はピークの昨年12月27日時点の8万7009枚からほぼ半減し、ドル売り・円買いの動きを後押しした。

もっともトランプ相場の最大の材料だった大型減税や大規模なインフラ投資といった目玉政策の実現性には黄信号がともっている。大和証券の亀岡裕次チーフ為替アナリストは「政策が実現できていないという点でも大統領選前の状態に戻っても不思議ではない。そこに地政学リスクが加わっている。6月くらいまでに105円台になる可能性もある」と話す。大企業製造業の想定為替レート1ドル=108円43銭(2017年度)を上回る円高となれば、企業業績に与える悪影響も無視できなくなる。

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90年代の円高再来? ドルの「実力」は急上昇

日本経済新聞 経済部 中村結、福岡幸太郎

外国為替市場が再びトランプ米大統領の発言に揺れた。「ドルは高すぎる」。トランプ氏が米ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)を通じ改めてドル高をけん制すると、13日の外為市場で円の対ドル相場は一時1ドル=108円台後半と5カ月ぶりの円高・ドル安水準を付けた。足元で高まっていた地政学リスクによる円買いと相まって、今回のトランプ砲は格好の円買い・ドル売り材料に。外為市場では、1980~90年代に起きた日米貿易摩擦時の円高・ドル安が繰り返されると警戒の声が出ている。

確かに、足元でドルは高い。米国の主要貿易相手国・地域の為替水準を基に相対的なドルの相場水準を算出する名目実効為替レートはトランプ大統領の就任後から3月末までに急上昇し、近年の上昇率でみると85年のプラザ合意前に匹敵する。JPモルガン・チェース銀行の佐々木融氏は「90年代前半の貿易摩擦時に起きた円高・ドル安を想起させる」と指摘する。

トランプ氏によるドル高けん制発言は今回が初めてではなく、むしろ市場は発言慣れしていたはず。だが今回は「直近の地政学リスクもあってドル売り方向に反応しやすいなか、投資家は材料を待っていた」(りそな銀行の井口慶一氏)。トランプ氏の今回のけん制がタイミングを図ったものかは不明だが、結果的には市場に格好の円買い・ドル売り材料を与えた。

日本の通貨当局などが発言しづらいタイミングだったのも、円買い・ドル売りに拍車を掛けた。みずほ証券の鈴木健吾チーフFXストラテジストは「来週には日米経済対話を控え、日本側は発言をしづらい。日本は円高を止められないと投資家が捉えれば投機的な円買い・ドル売りが加速する」と指摘。JPモルガンの佐々木氏は「北朝鮮を巡る地政学リスクも一段と高まれば、年末にかけて1ドル=100円ちょうど近辺もあり得る」と円高シナリオを描く。

歴史を繰り返すならば、円高・ドル安の後に訪れるのは輸出の自主規制や輸入の自由化、さらに米国での現地生産拡大だ。現時点では外為市場で日米の通商問題に発展するほどの警戒にはいたっていないが、少なくとも目先は円高・ドル安が進むとの予想は急速に高まってきた。円高に伴って日本株も下落基調へと風向きを変えており、米国によるドル高修正の動きは回復基調にある日本経済に水を差すかもしれない。

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〔マーケットアイ〕外為:ドル一時108円台に下落、5カ月ぶり安値 トランプ米大統領がドル高けん制

[東京 13日 ロイター]

<7:14> ドル一時108円台に下落、5カ月ぶり安値 トランプ米大統領がドル高けん制

ドル/円は109.02円付近で上値は重い。朝方に一時108.92円に下落した。108円台は昨年11月17日以来、5カ月ぶり。トランプ米大統領の「ドルは強くなりすぎている」との発言が伝わり、ドルが主要通貨に対し下落した。

トランプ氏は米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)とのインタビューで、ドルの強さに懸念を表明するとともに、連邦準備理事会(FRB)が政策金利を低く維持することが好ましいとの見方を示した。中国を為替操作国とは認定しない方針を明らかにしたほか、来年任期が切れるイエレンFRB議長の再任の可能性にも含みを残した。


トランプ大統領、「ドルは強すぎる」と発言:識者はこうみる

[東京 13日 ロイター]
トランプ米大統領は12日、米紙とのインタビューで、ドルは強くなり過ぎているとし、ドル高はいずれ米経済に打撃を与えるとの考えを示した。市場関係者の見方は以下の通り。

<セージ・アドバイザリー・サービシズの社長兼最高投資責任者(CIO)、ロバート・スミス氏>

トランプ米大統領は政治色を薄め、より現実路線に軌道修正している。

金利水準を抑制しない限り、為替水準を抑えることは難しい。だからイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長との協力を目指していることは明白だ。利上げによるドル高を招くことなく両方を実現するという、トランプ、イエレン両氏には妥協点を探る余地がある。

<BKアセット・マネジメント(ニューヨーク)のマネジングディレクター、キャシー・リエン氏>

こうした発言を行ったのは今回が初めてではない。ただ中国を為替操作国に認定すれば北朝鮮を巡る米中協議に影響が出る可能性があるとの発言は見過ごされたと感じている。

市場は大きく反応したが、トランプ氏は米国民に対し通商問題で譲歩しないと主張したかったに過ぎない可能性もあるため、反応は過剰だったと考えている。

ドルはすでに圧迫されているため、一段の圧力になるいかなるきっかけもドルのさらなる下落につながる可能性がある。

<クレディ・スイス(ニューヨーク)の世界外為戦略部門責任者、シャハブ・ジャリヌース氏>

トランプ米大統領が、ドルが強くなり過ぎていると認識していることや、低金利政策が望ましいとの考えを明確に示したことは、市場にとって新たな材料だ。

構造的なドル買い持ち状況にある中で、いずれの認識もドル相場にポジティブとは言えない。

皮肉なことに、ドルは貿易加重ベースで下落し続けているが、それでもトランプ氏の見方が変わったようにはみえない。特にドルが対円で(下落)圧力にさらされる中、今回の発言はこうしたトレンドの持続をさらにあおるようなものだ。

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ドル109円台に下落、地政学リスクや米債利回り低下で=NY市場

[ニューヨーク 11日 ロイター]
終盤のニューヨーク外為市場では、地政学リスクの高まりを背景に、安全通貨とされる円が主要通貨に対して上昇した。米国債利回りが低下したことも影響し、ドル/円は約5カ月ぶりの安値に沈んだ。

終盤のドル/円は1%強下落の109.67円と昨年11月17日以来の低水準。ユーロ/円も昨年11月17日以来の安値となる116.31円となった。

シリアや北朝鮮の情勢を巡る懸念にフランス大統領選の先行き不透明感が加わり、円高が進んだ。市場関係者によると、モスクワの飛行場で黒煙が上がっているとの報道でドル/円が節目の110円を割り込み、円の買い戻しが広がる場面もあった。ただ、この黒煙は付近の草地やごみが燃えているだけだと判明した。

TDセキュリティーズのシニアFXストラテジスト、メイズン・イッサ氏は「(モスクワの飛行場のニュースと)復活祭前で流動性が限定的だったとみられる状況が組み合わさり、ドル/円や取引全般の振れが非常に大きくなった」と指摘した。

ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨戦略グローバル責任者マーク・チャンドラー氏はこの日の値動きについて「市場が地政学問題にいかに神経をとがらせているかが分かる」と語り、重要な経済指標の発表がなかったことで地政学リスクに関心が集まったとの見方を示した。

フランス大統領選の世論調査で、一時失速していた急進左派のメランション候補が盛り返して3位に浮上。極右のルペン候補との決選投票になる可能性が出てきたことも、投資家の不安を誘った。

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コラム:ドル110円割れは買いか、3つの根拠

植野大作 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ為替ストラテジスト

[東京 5日]
2017年度が幕を開けた。例年、桜の季節を迎えると、本邦の為替市場関係者の間で「新年度のドル円相場」を巡る論戦が活発化する。以下、筆者の見解を述べておきたい。

まず目先の相場展開については、円高気味のスタートを想定している。毎年、新しい会計年度が始まると、「本邦投資家による新年度の外国証券投資が動き出す」「金融商品販売各社の期初商いが活発化する」などの思惑を背景にした円安期待が強まりやすいが、今年度に限れば、それを妨げる要素がたくさんある。

最初に、米国ではトランプ大統領の目玉公約だった医療保険制度改革法(オバマケア)代替法案の下院採決が頓挫したことで、米新政権の政策遂行力に対する疑念が明滅している。市場の期待の本丸である米税制改革やインフラ投資の可視化が遅れることへの焦燥感が漂っており、当面はドル円相場の上値を抑える心理的な重しになりそうだ。

次に、この先の政治日程を眺めると、トランプ政権下で新設された「日米経済対話」の初会合が4月中旬に予定されている。来日するペンス米副大統領やロス商務長官による厳しい対日要求への警戒感が広がっているほか、米財務省が近く公表する「為替報告書」でも日本の通商・金融・為替政策に対する批判的記述があるかもしれないとの懸念が渦を巻いている。

加えて、すでに佳境入りしているフランス大統領選挙についても、5月7日の決選投票で極右政党・国民戦線(FN)党首であるルペン候補の敗退が確定するまではフランスの欧州連合(EU)離脱いわゆる「フレグジット」への警戒モードを解除できない。事前の世論調査ではルペン候補の敗色は濃厚であり、市場経済派のマクロン候補(元経済相)が勝利しそうだが、昨年の英国民投票や米大統領選挙は世論調査通りの結果にならなかった。

為替の神様のいたずらか、奇しくも仏大統領選挙の決選投票は日本のゴールデンウィーク最終日に行われる。古参のドル円ファンたちは、「日本人が休みの間に相場が荒れた」記憶を非常にたくさん持っている。

このため、日本の連休明け頃までは、本邦在住の為替市場関係者の間にリスク許容度の緩和による円安気運が広がることを期待し難い。どちらかと言えば上値が重く、下値の柔らかい地合いが続くのではないか。もしも節目の1ドル=110円を割ってストップロスを誘発した場合、さらに数円程度の余地で円高が進む可能性はあるだろう。

ただし、仮に目先110円を割り込んだ場合でも、定着するレベルではないと考える。今年度のドル円相場について、筆者は「買いたい弱気派」に所属しており、110円割れのレベルでは、むしろ買い下がりで臨みたい。理由を3つ挙げておく。

<過大評価されるルペン・リスクと日米通商摩擦懸念>

第1に、仏大統領選挙は「ルペン敗北・マクロン勝利」で決着するだろう。いわゆる「政治ネタ」に予断を持つのは禁物だが、メインシナリオを決めずに相場の予測はできない。昨年の英国民投票や米大統領選挙が「まさか」の結果になった後、両国から伝わってくる諸々の報道は、大方のフランス人にとって他山の石になっていそうだ。

あくまで私見だが、現在の英国や米国を見て、「自分の国もあんな風になりたい」と考えるフランスの有権者が過半数を超えそうだとは思えない。仏大統領選挙が終了した後の為替市場では、恐らく「ルペン・リスク」からの解放感が広がるだろう。

第2に、日米通商摩擦による円高リスクを筆者はあまり重視していない。米国の対日貿易赤字の大きさから見て、今後の2国間交渉で何らかの改善策は要求されそうだが、プラザ合意前に240円を超えていたドル円相場が一時70円台になっても米国の対日赤字はなくならなかった。目に見える結果を早く求めるトランプ政権は、日本に対して為替よりも直接的で即効性のある不均衡の解消策を求めてくるのではなかろうか。

もちろん、日米間の通商協議が行き詰った場合は、交渉の道具として為替口先介入や文書介入による「円高カード」を切ってくる可能性はある。だが、3月の当コラムで指摘したように、近年のドル円市場の売買金額は、年間約2京4700兆円程度に膨張している。

為替市場よりはるかに規模が小さい国内外の債券・株式市場でも、長期金利や株価は政治家が意のままに動かすことはできない。独立した中央銀行による金融政策と自由な国際資本移動が確立されている2国間の為替レートは、政府による操作がより困難なはずだ。

あくまで筆者の見解だが、日米両国でどんな要職にある人物でも、特定の政治家や閣僚が為替相場に対する自らの想いを口頭や文書で伝えるだけでは、せいぜい数日から数週間、長くても数カ月程度の一時的ショックを市場に与えられるだけだ。長期間にわたってドル円の上下限を制限し続けたり、長期的なすう勢を支配したりすることは、無理な時代になりつつあると考えている。

<日米金融政策格差によるドル円上昇圧力が再浮上>

第3に、衆目に明らかな日米金融政策の印象格差が今後一層鮮明になり、次第に「政治的ノイズ」による円高観測を凌駕し始めるだろう。まず米国サイドでは、いわゆる「トランプノミクス」への期待が急速に萎える中でも景気が堅調に推移、「一刻も早くトランプ財政が発動しなければ失速する」との危機感は漂っていない。

現在、主要通貨圏では米国だけで孤高の利上げが進行しており、トランプ政権の迷走を目の当たりにしても、米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーからは、今年3月に実施した利上げを含めて「年内3回」程度の実施を支持する発言が相次いでいる。

昨年末の記者会見でイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長は、ほぼ完全雇用状態に達した米国経済に財政刺激は「明らかに必要ない」と述べていた。一般に、民間の活力で経済がうまく回っている間、規制緩和以外の政策について、政府はむしろ「何もしない」のが一番良かったりする。足元の米国経済はそんな状態にあるのではないか。

次回の米利上げは6月に実施される可能性が高く、マーケット・トークの題材としてはすでに相当織り込まれている。だが、ドルの短期調達コストや運用利回りが今の水準からさらに0.25%程度の幅で上昇した場合、その影響を回避できない国内外の投機家や投資家の為替売買行動に無視できないインパクトが及んでいくだろう。

翻って日本の金融政策に目を転じると、異次元緩和開始から4年が過ぎても「物価目標2%」の達成が視野に入っていない。「短期金利=マイナス圏に水没、長期金利=ゼロ%界隈に固定」という異例の金利操作は長期化の可能性が極めて高い。「インフレ率実績を目標から上振れさせる」という「オーバーシュート型コミットメント」を撤回しない限り、ベースマネーの漸増も続く仕組みになっている。

日銀の金融政策に対する評価は十人十色だが、筆者は日本中の金融機関、諸法人、個人投資家が安全かつ満足のいく円金利を稼げる機会を見いだすのがどんどん困難になっている点を重視している。仏大統領選挙絡みのモヤモヤ感が晴れる頃まで待つ必要はあるが、日銀が現在の超低金利政策を根気よく続けていれば、米追加利上げ観測の実現とともに、ドル高・円安圧力が表出してくる時期が早晩やってくるだろう。

年度後半に想定すべきドル円の上値めどをピッタリ当てる自信はないが、ひとまずは心理的節目の115.00円、そして昨年末高値の118.66円などを意識している。これらを抜いた場合はその時の状況を踏まえ、120.00円前後の攻防まで踏み込むか否かを検討したいと考えている。

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