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「有事の円売り」が復活する日

日経ヴェリタス編集長 小栗太

いつから円は安全資産になったのだろう。米国によるシリアへのミサイル攻撃を機に北朝鮮情勢が緊迫するなかで「有事の円買い」の連想が働き、円高・ドル安が勢いづいている。

■リーマン危機が転機に

為替市場を取材して20年余り。最近気になるのがリスク時に安全資産とされる円にマネーが流れ込む「有事の円買い」だ。取材を始めたころは覇権国の米国にマネーが退避する「有事のドル買い」と学んだが、どこかで180度変わってしまった。

過去の日本経済新聞を調べると、10年ほど前の2006年10月の記事が出てきた。見出しは「北朝鮮リスクで円売り」。北朝鮮の核実験を受けて「有事の円売り」が強まったという内容だ。ほんの10年で市場の法則がひっくり返ったことが分かる。

いったい何があったのか。理由は2つ考えられる。1つは2000年代に入り、米同時テロやリーマン・ショックといった米国史に名を残す大事件が相次いで発生。なかでも08年のリーマン・ショックは米国市場の安全神話を根底から揺るがせ、「有事のドル買い」を弱める最大の要因になった。

そしてもう1つは、市場を占拠しつつある機械取引の急拡大だ。機械取引は過去の相場材料と値動きの相関性を読み込み、自動で売買を判断する。いったん最近の「リスク増大→円高・ドル安」という相関性を読み込めば、地政学リスクの詳細な情勢分析をすることなく円買い・ドル売りが一気に膨らむ仕組みだ。

ただ冷静に考えてみると、仮に北朝鮮情勢が緊迫した際は安全資産とされる円にマネーが流入するよりも、地理的に近い日本からマネーが流出するという解釈の方が受け入れやすいのではないか。万が一の武力衝突リスクを想定すれば、日本よりも米国の方が安全に思われるからだ。

■2段階でリスクに反応

かつて三菱東京UFJ銀行やドイツ証券で「有事の円売り」から「有事の円買い」への転換を目の当たりにしたFPG証券の深谷幸司社長は「リスク発生時の取引行動には段階がある」と指摘する。まず不透明感が浮上した時点で、市場参加者は持ち高を減らす行動に出る。例えば現状ではトランプ相場で買い上げた株式を売り、円安・ドル高を解消しようと円を買い戻す。そしてリスクが顕在化した時点では、どの国の実体経済や金融市場に悪影響が及ぶかを判断する。例えばリーマン・ショックの時は米国市場が痛むため、日本にマネーを移す動きが強まった。

11年に東日本大震災が起きた後、「有事の円買い」の連想から円高・ドル安が加速し、円の最高値を更新した。市場では当時、保険会社が被災地で発生する保険金を手当てするために海外資産を取り崩す必要に迫られ、膨大な円買いが発生するという後講釈がなされた。だが実際は東京電力福島第1原子力発電所事故が発生し、企業のサプライチェーン(部品供給網)が寸断されるなど、日本経済に深刻な影響が及んだ。結局、日本が貿易赤字に転じる過程で「有事の円買い」は大幅な円安方向に修正されていった。

FPG証券の深谷社長は北朝鮮で武力衝突が起きるような深刻な事態に進展した場合は「有事の円買い」がひっくり返り、再び「有事の円売り」に転換する可能性が十分あるとみる。

トランプ米大統領はツイッターに「中国が協力しなければ、我々が中国抜きで問題を解決する」と投稿。北朝鮮の後ろ盾である中国に働きかけ、それでも改善しない場合は単独行動も辞さない姿勢を示す。

「北朝鮮リスクで円売り」という見出しが再び紙面に載ることはあるだろうか。もっともそれは北朝鮮情勢が想定したくない事態に陥ることを意味するのだが。

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